ネタバレなし!映画『瞳をとじて』感想と見どころ

瞳をとじて ミステリー

「映画は見たいけれど、ハズレを引いて時間を無駄にしたくない」「静かな映画だと聞いて、途中で眠くなってしまわないか心配」

そんな風に、再生ボタンを押すのをためらっている方はいないでしょうか?

特に上映時間が長めの作品となると、そのハードルは少し高く感じるものです。

しかし、もしあなたが「映画」という芸術そのものが持つ魔法や、静謐な時間の中に流れる濃密な感情体験を求めているのであれば、この作品は間違いなく、あなたの人生にとって忘れられない2時間50分になるでしょう。

本作は、単なるミステリーではありません。

記憶、アイデンティティ、そして映画への深い愛が幾重にも織り込まれた、極めて上質なヒューマンドラマです。

これから始まる長い旅路が、決して無駄な時間ではないことをお約束します。

まずは、リラックスしてこの物語の入り口に立ってみてください。

  • 主演:マノロ・ソロ(ミゲル・ガライ役)
  • 主な共演者:ホセ・コロナド(フリオ・アレナス役)、アナ・トレント(アナ役)
  • 監督:ビクトル・エリセ
  • 上映時間:169分

注意事項
あらすじや作品情報など、正確な情報を記載するように注意しておりますが、何分個人で運営しているため、誤りや見落としがあるかもしれません。考察は映画の解説ではなく、わたし個人の感想からきているものです。あらゆる基準がわたしの主観的な判断のよるものです。以上をご了承の上、読んでいただけると幸いです。

ビクトル・エリセ監督、31年ぶりの長編新作

映画観ている後ろ姿

映画ファンにとって、この見出しだけで胸が高鳴る特別な意味があります。

スペインの巨匠、ビクトル・エリセ。

彼は「多作」とは対極に位置する監督であり、その完璧主義とも言える制作スタイルから、寡作な作家として知られています。

彼の名を世界に知らしめたのは、1973年の傑作『ミツバチのささやき』です。

スペイン内戦下の小さな村を舞台に、少女の純粋な瞳を通して現実と幻想が交錯する様を描いたこの作品は、映画史に残る金字塔として今も多くのクリエイターに影響を与え続けています。

それに続く『エル・スール』(1983年)、ドキュメンタリーに近い『マルメロの陽光』(1992年)と、発表する作品すべてが極めて高い評価を受けてきました。

しかし、そこから長編映画としての新作が途絶えてしまいます。

実に31年もの間、世界中のファンが彼の「次なる物語」を待ち望んできました。

本作『瞳をとじて』は、そんな長い沈黙を破って届けられた、奇跡のような一作なのです。

エリセ監督の作品の特徴は、言葉よりも雄弁な「映像」と「静寂」にあります。

派手なカメラワークや過剰な演出に頼ることなく、光と影の陰影、風の音、そして俳優の微細な表情の変化だけで、観る者の心に深く入り込む感情を描き出します。

本作でもその手腕は健在どころか、より円熟味を増しています。

31年という歳月が、監督自身にどのような変化をもたらし、また何が変わらなかったのか。

その答えをスクリーンで確かめること自体が、一つの映画体験と言えるでしょう。

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失踪した俳優と未完の映画を巡る物語

映画を観ている

物語の導入部は、非常にミステリアスで観客の好奇心を強く刺激します。

主人公は、かつて映画監督として将来を嘱望されていたミゲル・ガライ。

彼は22年前、自身の監督作『別れのまなざし』の撮影中に、主演俳優であり親友でもあったフリオ・アレナスが突如として失踪するという事件に見舞われます。

主演俳優の失踪により、映画は未完のまま製作中止に。

ミゲルはその出来事をきっかけに映画界から距離を置き、海辺の町でひっそりと暮らしていました。

しかし、あるテレビ番組の企画でこの失踪事件が再び取り上げられることになり、ミゲルは封印していた過去と向き合うことになります。

ここでのポイントは、これが単なる「犯人探しのサスペンス」ではないという点です。

もちろん、「フリオはなぜ消えたのか?」「彼は生きているのか、死んでいるのか?」という謎は物語の推進力となります。

しかし、本作が真に描こうとしているのは、残された者たちの心の揺らぎです。

突然断ち切られた時間、語られなかった言葉、そして未完のまま放置された情熱。

ミゲルがかつての撮影フィルムや関係者を訪ね歩くプロセスは、失われた時を探す旅でもあります。

過去の映像に残されたフリオの姿と、現在のミゲルの老い。

この対比が、残酷なまでの時間の経過と、それでも消え去らない記憶の強さを静かに浮き彫りにしていきます。

「ミツバチのささやき」のアナ・トレント

本作を語る上で絶対に外せないのが、アナ・トレントの出演です。

彼女は、エリセ監督のデビュー作『ミツバチのささやき』で、あの黒く大きな瞳を持つ主人公の少女を演じた女優です。

当時5歳だった彼女の演技は「映画の奇跡」と称賛され、多くの人々の記憶に刻まれました。

あれから50年の時を経て、彼女が再びエリセ監督の作品に帰ってきたのです。

本作で彼女が演じるのは、失踪した俳優フリオの娘、アナ。

役名もまた「アナ」であることに、監督の特別な想いを感じずにはいられません。

スクリーンに映る彼女の姿は、当然ながら大人になっています。

しかし、その瞳の奥にある力強さ、あるいはどこか遠くを見つめるような眼差しは、50年前の少女の面影を色濃く残しています。

彼女が登場するシーンは、物語の中で過去と現在、そして虚構と現実をつなぐ重要な結節点となっています。

かつての少女が、人生の酸いも甘いも噛み分けた大人の女性として、再びエリセのカメラの前に立つ。

その事実だけで、映画ファンならば胸が熱くなることでしょう。

彼女がミゲルと交わす会話、その佇まいは、長い年月を生きてきた人間にしか出せない深みと哀愁を帯びており、ドラマに重厚なリアリティを与えています。

難解?本作のストーリーと鑑賞のポイント

「巨匠の31年ぶりの新作」と聞くと、「芸術性が高すぎて難解なのではないか?」「予備知識がないと楽しめないのではないか?」と不安に思う方もいるかもしれません。

しかし、安心していただきたいのは、本作のストーリーライン自体は非常にシンプルで分かりやすいということです。

「失踪した友人の謎を追う」という主軸がしっかりしているため、物語の道筋を見失うことはありません。

確かに、最近のハリウッド映画のようにテンポが速く、次々と刺激的な展開が訪れるタイプの作品ではありません。

しかし、そのゆったりとしたペースこそが、この映画の味わいそのものなのです。

鑑賞のポイントとしては、「急がないこと」を楽しむ姿勢が大切かもしれません。

登場人物たちの会話の間、ふとした沈黙、風景をじっくりと映し出すショット。

それら一つひとつに、言葉にできない感情が込められています。

「何かが起きるのを待つ」のではなく、「今映し出されている時間を共有する」感覚で観ていただくと、より深く作品の世界に没入できるでしょう。

また、本作は「記憶」をテーマにしていますが、それは個人の記憶にとどまらず、「映画という媒体が持つ記憶」についても言及しています。

フィルムからデジタルへと時代が移り変わる中で、かつて撮影された映像がどのような意味を持つのか。

そうしたメタ的な視点も含まれていますが、決して説教臭くなく、物語の中に自然に溶け込んでいます。

静寂と眼差しが語る、映画への深い愛

タイトル『瞳をとじて』が示唆するように、この映画では「見る」こと、そして「眼差し」が極めて重要な役割を果たしています。

登場人物たちは多くを語りませんが、その視線は雄弁です。

何かを見つめる目、視線を逸らす仕草、そして閉じた瞳の裏に浮かぶ情景。

エリセ監督は、光の魔術師とも呼ばれます。

本作でも、薄暗い部屋に差し込む一条の光や、海辺の夕暮れ、夜の帳が下りる瞬間の美しさが際立っています。

派手なVFXは一切ありません。

そこにあるのは、丁寧に計算された構図と、自然光を巧みに操る職人技のような撮影技術です。

特に印象的なのは、未完の映画『別れのまなざし』のフィルム上映シーンや、古い映画館、フィルム缶といった小道具の扱いです。

これらは単なる背景ではなく、映画という文化そのものへのラブレターのように映ります。

デジタル全盛の今だからこそ、物理的な実体を持つ「フィルム」の質感や、映写機の回る音が、ノスタルジーを超えた神聖なものとして描かれています。

映画の中で映画を語る、いわゆる構造的な仕掛けもありますが、それは知的な遊びではなく、映画を愛するすべての人への優しいメッセージのように感じられます。

「映画は、人生を映し出す鏡であると同時に、時には人生そのものになり得る」。

そんな監督の静かな、しかし熱い信念が、画面の端々から伝わってくるのです。

エンドロール後に残る余韻と感動

169分という時間を経て物語が幕を閉じたとき、あなたは何を感じるでしょうか。

劇的な大どんでん返しに驚くというよりは、静かな波が心を満たしていくような、深く穏やかな感動に包まれるはずです。

すべての謎が白日の下に晒されてスッキリ解決、という安易なカタルシスとは異なります。

しかし、物語の結末には、言葉では言い表せないほどの「納得感」と「希望」が宿っています。

それは、人生には解決できないこともあり、失われたものは二度と戻らないかもしれないけれど、それでも生きていくことには意味がある、という静かな肯定です。

エンドロールが流れ、暗転した画面を見つめながら、あなたは自分自身の過去や、大切だった人々、そしてこれまでの人生で見てきた映画たちのことを思い出すかもしれません。

この映画は、観終わった後も長く心の中に留まり、ふとした瞬間に思い出されるような、そんな作品です。

Amazonプライム・ビデオでこの作品を選ぼうとしているあなたへ。

もし今、心に少しの余裕があり、上質な物語に浸りたいと思っているなら、迷わず再生することをおすすめします。

それは、消費されるだけのコンテンツではなく、あなたの記憶の一部となる「体験」になるはずです。

注意

記事は投稿した当時、amazonプライムビデオで配信されていたものです。
現在配信されているか最新の状況は、必ずamazonプライムビデオサイトにてご確認をお願いします。

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